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ヌクレ落ち度(ヌクレに落ち度がある)

脳活動の測り方いろいろ

この記事は TUT Advent Calendar 2020 12日目の記事です。

adventar.org

はじめに

こんにちは。1日目の人かつ12日目の人です。遅くなってすみません。
そろそろ実験に一区切りがつき、修士論文がまとまりはじめる時期みたいですね。
私は最近 人間と 会話をする機会が減ってきて、だんだん社会というものを意識しなくなってきました。

さて、前回は日常的なお話をしたので、今回は私の専門分野に関わる話をします。

注意ですが、ここに書いてることが10000%正しいことは保証しません。だからここで得た知見をひけらかして教授とかにマサカリを飛ばされても私はなんの責任も負いません。
殴り込みに来られても私の居るところはカードキーを持った人しか入れませんので悪しからず。
でも「これ明らかに間違ってるでしょ」というご指摘はありがたいのでぜひお願いします。

まずはこの図をみてください

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2014年時点の脳計測手法とその時空間分解能*1

脳の活動を測る、と言われたとき、皆様はどのようなものを思い浮かべるでしょうか?現在使われているもので、主要な脳活動計測手法はざっとこれだけあります。これは2014年時点にまとめられたものです。この中にも、何か名前だけは聞いたことがあるな、というものがいくつかあるかと思います。右下に載っている1988年時点の図と比べると、30年でこれだけ多くの計測手法が生まれ、発展しているんだなというのがわかります。今回はこの中から特によく使われるものをピックアップしてご紹介します。

電気生理学的手法

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電気生理学的手法の実験概観。
最も古典的で、かつ今でも重宝されている手法がこれです。さっきの図でいうと"single units"と"patch clamp"、あと"field potentials"を指します。「電気生理学」という言葉じたいはじめて聞く方が多いのではないでしょうか。これは名前のとおり、細胞の「電気」的性質とその細胞の「生理」学的性質(つまり機能)との関係を理解する学問と、そのための実験技術を指します。私が研究で使っているのはこの手法です。

 皆様がご存知のとおり、ニューロンの活動は電気的な活動を伴います。そしてこの電気的活動を電極で読み取る、というのが電気生理学的手法です。 電極は先端を尖らせた金属もしくはガラス管で、用途に応じて使い分けられています。金属ではタングステン、ステンレス、プラチナ、あとエルジロイ合金の電極がよく使われます。これも用途によります。
 測り方は、生体の頭蓋骨に穴を開けて脳へ電極を刺入し、電極先端を細胞に近づけるorくっつけるor内に刺し、リファレンス(頭蓋骨に不関電極を置いたり、実験設備のアースに落としたりします)との電位差を測る、という感じです。信号はmVもしくはμVオーダーで非常にノイズに弱いので、実験はシールドテント/ルーム内で、かつシールド内は全てDC電源下で行います。シールド内でコンセントから電源を取ると50/60Hzのハムノイズで神経活動の信号がかき消されます。
 さて、ガラス管電極と金属電極とでどう使い分けられているのか?というと、「神経活動、細胞内から見るか?細胞外から見るか?」です。これらはそれぞれ細胞内記録、細胞外記録、と呼ばれ、前者はガラス管電極、後者は金属電極が使われます。このときもちろん、それぞれで記録される電気信号は極が反対です*2

 この手法の利点は、単一のニューロンから(記録装置によるが)msオーダーの信号が得られる、という時空間解像度の優越性が最も大きいです。脳の深いところにある、単一の細胞から記録するならば、まだこの手法に代わるものはないと思います。また後述の手法よりも明らかに、神経活動について直接的な情報が得られるため、比較的解釈がしやすいです(ほんまか?)。
 この手法の欠点の第一は、生体からの記録では記録位置のモニタリングが難しい、つまりどの細胞から録ってるのかぶっちゃけわからないということです。これについては実験技術が発達していますが、たいていは組織学的な、つまり脳を取り出してスライスにして染色してから、の後確認になります。in vivo(生きたまま)でやる場合はレントゲンやMRI-guidedな電極刺入で繊細な位置決定ができるらしいですが、手続きが煩雑です。
 第二の欠点、そしてこの手法の一番のネックは脳にダメージを与えること、そのためヒトでは倫理的に、ふつう行えないことです。つまり人間でない動物、主に霊長類(サル)や齧歯類(マウス)を対象としてこのような実験をします。これも欠点で、他の動物から得られた知見は、果たしてヒトに当てはめられるのか?ということが問われます。視覚に関して言えば、もはやマウスの視覚系(網膜から脳まで)はヒトと大きく違うため、マウスをヒトのモデル動物として、マウスの視覚研究で得られた知見をヒトへ持っていくことは難しいんじゃないか?というのが最近の界隈からみた私の考えです。この話はここで終わりにします。

fMRI

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*3 *4
おそらく皆様にとって、脳波と同列くらいに最も身近な「脳活動」だと思います。これは現在ヒトを対象とした脳活動記録で最も使われている手法の一つです。皆様も人間ドックやら何やらで、何かでっかくてうるさい装置に寝っ転がった記憶があると思います。MRIは生体へ強い磁場をかけたときに起こる水素原子のミクロな現象(核磁気共鳴現象)の、水素原子が存在する環境による差(たとえば骨と脂肪)を信号として、生体の構造を撮影する技術として発達しました。強い磁場環境なので金属を持ち込むのは禁忌です。もし金属を持ち込むとどうなるか、はググるとヤバいのが出てきます。
 MRI原理の話はさておき(ここ勉強不足なので)、これでどうやって「脳活動」を測定しているかというと、次のとおりです。
 脳活動、つまりニューロンが活動するとき、近傍の毛細血管の血液から酸素が消費されます。これに伴って、一時的に脱酸化ヘモグロビンの濃度が高くなります。その後、それを補うように血流量・血液量が増えることで脱酸化ヘモグロビンの濃度が低くなります。MRIのうちT2強調画像と呼ばれるものでは、この一連の流れを信号のコントラストとして検出できるため、「神経活動に伴う血液・血流のダイナミクス」を脳活動としてみている、ということです。

 この手法の第一の利点は、低侵襲、つまり生体を傷つけない(ほんまか?)ということでヒトへの利用が可能であることです。実際、医療の現場でこの技術はもはや呼吸のごとく使われています。次の利点は、「比較的」高い空間解像度のデータが得られることです。テレビ等メディアでも、たとえば「〇〇をしているとき、脳の〇〇野の活動が増えた」みたいな話を聞いたことがあるかと思います。これくらいのスケールでなら脳活動の局在を主張できます。じゃあ何がわからないのか、ということは欠点として後述します。 さらなる利点は、脳全体から記録可能であることです。前述のような電極を刺す記録手法で全脳から記録する、ということはできません。
 この手法の欠点の第一は、時間解像度が悪いということです。上に述べた血流のダイナミクスは数秒のレンジがあるので、得られるデータの時間解像度も数秒オーダー、ということになります。第二に、実験目的によってやはり空間解像度が足りない場合があることです。脳は○○野、と呼ぶよりもさらに微細な、役割の異なる構造で分かれています。例えば大脳皮質は6層構造です。これを区別して活動を測定するならば、最低でも100μmオーダーの空間解像度がほしいですが、現状ではまだ無理です。

 ちなみに、同じく血流から神経活動を推定するやり方にNIRSというものがあります。これは頭皮上から近赤外光を当てて、返ってきた光をみています。ヘモグロビンは酸化/脱酸化で近赤外あたりの吸収スペクトルに差があるので、これでニューロン活動による血液からの酸素消費をモニタリングしよう、という感じです。この手法はfMRIみたいな閉所かつうるっさい環境である必要がないため、赤ちゃんから脳活動をとるのによく使われます。ただし、時空間解像度はfMRIや次に述べる脳波と同じ理由で乏しいです。

脳波 (Electroencephalogram, EEG)

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*5
fMRIよりも、皆様の生活レベルで身近なのが「脳波」です。脳波を読み取って動く猫耳~とかそういうおもちゃがあったと思います。あとは「α/β/θ/γ波」など聴いたことあると思います、それが脳波です。
脳波計測はTUTでも一部の研究室が使っている手法です。

脳波の「波」が何なのか、というと、「ニューロンが集団で活動したときの電気活動」です。ニューロンは単一で活動するだけではなく、近傍のニューロン集団が同期的に発火することで活動します。この集団活動が同期していればいるほど、そしてそのニューロン集団が大きければ大きいほど、電場の重ね合わせが大きくなるので、振幅が大きい脳波になります。またざっくりですが、これが意識の状態に応じて特定の周期の波の形をとったり、感覚刺激に対する特定の応答としての波の形をとったりします。前者は周波数帯に応じてα波β波といった名前が与えられており、意識の状態(起きてる、寝てるなど)をモニタリングしたり、てんかんなどの脳疾患の診断に使われたりします。後者は事象関連電位(Event-related potential, ERP)と呼ばれていて、ここからも意識の状態、たとえば注意や気付きの違いを知ることができると言われています。  脳波の測定は、頭皮上の興味ある場所へ電極を置き、どこか(だいたい耳介)に不関電極を置いて行います。電極の置き方には国際10-20法というスタンダードがあるらしいです。

 この手法の利点は、これもまたfMRIと同じく低侵襲であるということや、実験設備のコストが他よりもかからないため導入しやすい、ということです。また、電極の配置しだいで全脳から測定することができる、というのも利点です。 また、電場の測定であるため時間解像度には優れており、ミリ秒オーダーの解析が可能です。これまで脳波測定によって、ヒトの高次機能にかかわる研究が盛んに行われてきています。  この手法の欠点は、空間解像度が悪いことです。電極を置いたポイントで、頭皮まで漏れ出てきた電場を拾うわけなので、あるいは空間解像度というかなんというか、という感じです。そもそも大脳皮質の神経細胞と頭皮の間には軟膜から頭皮までたくさんの不均一な構造を介していて、神経細胞のmVオーダーの信号はそれらで拡散と減衰を繰り返すので、どれだけたくさん頭皮上に電極を配置しようと、不均一に拡散と減衰を繰り返した電場信号から精細な脳構造上の位置推定をすることはできません。あと、それだけ減衰された信号を読み取るので、それよりも強い信号、例えば筋電なんかは強いノイズになります。額をピクッとさせたり、まばたきをしたりすると、その時刻の脳波を解析することはできないです。

カルシウムイメージング

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生きたマウスの脳のカルシウムイメージング*6
今をときめく脳活動測定手法のひとつとして、カルシウムイオンのイメージングがあります。ニューロンの細胞膜内外ではNa、K、Caなどのイオンが行き来しており、これが膜内外の電位差を発生させています。特にCaイオンはニューロンがスパイク活動を起こすと一気に細胞膜内へ流れ込み、急激に濃度が上昇するイオンです。これをどうにかして可視化することで、ニューロン活動を視覚化するというのがこれです。  やり方は、Caイオンと結合すると蛍光強度を変えるような指示薬もしくはタンパク質、つまり蛍光物質をニューロン内に導入して、蛍光顕微鏡で観察する、という感じです。  この手法の利点は、数十から数百といったニューロンから同時に、単一の細胞単位で神経活動を記録できることです。つまりある程度広い範囲から高い空間分解能で測定できるということで、従来の電気生理学的手法とfMRIや脳波とのいいとこ取りみたいな感じです(さすがに脳全体ではできませんが)。
 高い空間分解能という点で、なぜこの手法が今をときめいているのか、という理由ですが、それは二光子顕微鏡というものが普及してきたことが大きいと思います。ふつうの蛍光顕微鏡から発する光は、(むろん光なので)焦点を中心に、深さ方向に砂時計のような形の範囲で蛍光させてしまうので、見たい細胞に限らず、まわりの不要な蛍光も混ざってしまいます。しかし、二光子顕微鏡で起こす二光子励起は焦点位置でのみ起こせるのでそういった拡散がなく、見たい細胞でだけ蛍光させることができる、というものです。深さ方向の拡散がなく、「点」で蛍光させられるため、二光子顕微鏡を用いたカルシウムイメージングでは、深さ方向のデータもとることができます。また、二光子顕微鏡ならば、通常の光学顕微鏡の空間分解能の原理的な限界(回折限界)を超えた、nmオーダーの観察も行えます。 私も生きたマウスで二光子カルシウムイメージングをはじめて実際に見たときは感動しました。ニューロンの神経活動が周りに伝搬していく様子が光って見えますし、樹状突起や軸索のような細胞体よりも細かいところまでしっかりとCaイオンの伝搬が見えます。
 この手法の欠点は、上で述べた手法のいくつかよりも実験操作が難しく、また実験コストが高いことです。特に二光子顕微鏡なんてまだ数千万円します(一部3ケタ万円に落ちたとか聞いた気がするけどまだ高い)ので、一般ラボじゃとても買えないです(特にTUTみたいに工学系の大学じゃ需要もたかが知れてますし。ほしいけどなあ)。もう一つの欠点は、深さ方向の観察に難がある、ということです。いくら二光子顕微鏡が大脳皮質の奥側だけ蛍光させられると言っても、現在の限界は深さ方向に1mm未満です。これはマウスの大脳皮質ならみれますが、それ以上の脳深部の構造は無理ですし、ましてや霊長類では大脳皮質の表層くらいで終わってしまいます。最近、どうにかして脳深部で二光子カルシウムイメージングをやろう、という研究があるみたいです。ただし、恐らく光を届けるプローブの関係で大脳皮質へのダメージが大きくなるんじゃないかなと思ってます。

能力の壁、倫理の壁

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主な脳活動データの種類*7

ここで改めて紹介してきた手法たちを俯瞰するわけですが、今度は別の図を持ってきました。紹介されているものはさっきと同じですが、今度は点線を堺に"Noninvasive(非侵襲)"と"Invasive(侵襲)"という分け方がされています。改めて、非侵襲というのは、生体を傷つけない、ということ、反対に侵襲というのは生体を傷つける、ということです。前述のとおり、fMRIや脳波は頭蓋を開けたりする必要がないので非侵襲、電気生理学的手法は脳に直接電極を刺すので侵襲、といえます。
 この非侵襲/侵襲の壁は、脳計測手法がもつ時空間分解能の壁にほぼ対応しています。一般に、非侵襲な手法は時空間分解能が乏しく、侵襲的な手法は時空間分解能に優れています。更に、非侵襲/侵襲の壁は、ヒトを対象とした研究をするときの、倫理の壁にほぼ等しいです。基本的に、ヒト相手に侵襲的な手法を使うことはできません。最近だとイーロン・マスク氏のNeuralinkという、脳に電極を埋め込むようなデバイスが注目されていますが、あの類をヒトで実証実験するのにはかなり厳しい条件が必要なはずです。他方、医療目的で侵襲的な脳計測を使う場面はあります。たとえば脳深部刺激療法(Deep brain stimulation, DBS)は、主に大脳基底核という脳深部の構造まで電極を刺入し、そこへ電気刺激をするという手法で、パーキンソン病の治療に使われます。もちろん、電極の刺入はヒトの大脳皮質にダメージを与えるため、刺入位置・角度などには細心の注意が払われます。
 とはいえ、ふつう研究目的であるならば、侵襲的手法はヒトではない動物、主にマウスやサルで行われます。これは電気生理学的手法の欠点として述べたところで、得られたデータはヒト脳構造・機能との整合性が問われます。また動物実験に関しても、特に霊長類ではヒトに準ずるレベルで厳しい倫理的制限のもと行われますが、この話はそれだけで大きな記事になってしまいますし、少し面倒なことになりそうなので割愛させてください。

結局どれが強いの?

これまで述べてきたとおり、計測手法の強みは時空間解像度とコスト、そして適用可能範囲で評価できますが、結局どの手法が一番強いのか?と言われると、そんな夢のような手法があるなら全研究者が使ってます。どこかを強みにもつと、かならずそれ以外が弱みになります。大事なのは、実験目的に即した計測手法を使い、かつそれぞれの計測手法で得られたデータを正しく解釈することです。荒く脳全体から録った脳活動データから、それがどんな認知機能に関わるのかは考察できても、その神経基盤を詳細に議論することは難しいですし、単一細胞の活動が得られても、それがどんな高次機能に寄与するのかを語ることは難しいです。また、議論する脳機能が高次になればなるほど、得られた脳活動と突き合わせて議論することが難しくなってきます。高次領野は、その前に様々な機能を担う脳部位を介して情報伝達がなされてきているため、そのどれに起因するものなのか、ちゃんと切り分けないと議論ができません。逆にいえば、そういったデータには都合のよい解釈をつけやすいです。なので、一般人にもわかりやすい、例えば「やる気」だとか、そういった曖昧な概念と脳活動とを結びつけるコンテンツには注意が必要です。「〇〇医学博士監修!」とか書いてあっても基本信頼しないほうがいいです。


とりあえず以上です。後で書き直したり書き足したりするかもしれないです。
明日は @lz650sss (sublimer)さんの記事です。sublimerさんは高専の部活の後輩で、情報系の技術と知識に関して私は全く手も足も出ないです。お楽しみに。

*1:Sejnowski, T., Churchland, P. & Movshon, J. Putting big data to good use in neuroscience. Nat Neurosci 17, 1440–1441 (2014). https://doi.org/10.1038/nn.3839

*2:細胞内記録は、細胞膜内と外の電位差を図っているので、まさにその細胞の膜電位をテスターで測っているに等しいです。しかし細胞外記録は電極が細胞の外にあるため、結局何の電位差を拾ってきているのか、を考えると少しややこしいです。この話は北大CHAINの吉田先生がまとめた資料が詳しいです。

*3:上: Photo credit: pennstatenews on Visualhunt / CC BY-NC-ND

*4:下: Photo credit: Image Editor on VisualHunt.com / CC BY

*5:Photo credit: Tim Sheerman-Chase on Visualhunt / CC BY

*6:https://groups.oist.jp/ja/node/21941

*7:Kim, Yoon & Park, Sungwoo & Yeom, Hong Gi & Bang, Moon Suk & Kim, June & Chung, Chun Kee & Kim, Sungwan. (2015). A study on a robot arm driven by three-dimensional trajectories predicted from non-invasive neural signals. Biomedical engineering online. 14. 81. 10.1186/s12938-015-0075-8.