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TUT Advent Calendarのために急きょ開かれた空間.Tumblrからお引っ越し.

けんきうのおはなし

この記事は,TUT Advent Calendar 2018 2日目の記事です. adventar.org

2日目ですがトップバッターです.

自己紹介

はじめましての方ははじめまして.
かつてTechnoTUTというサークルのリーダーをやってた情報系です (Fig. 1). f:id:xxT3:20181202172324p:plain
Figure 1. ツイッターのプロフィール

最近はこんなことをやってます (Fig. 2).

Figure 2. サークルアカウントの凍結

で,普段は視覚に関する心理物理とか神経科学とかを勉強してます. 今回はそれについて導入的なことを少し話したいと思います.

生き物はどうやってものを「見て」いるのか?

言葉では「目でものを見る」とよく言います.
確かに,目がなくなったらものを見ることはできなくなるのは事実です.
では,目さえあればものは見えるのでしょうか?

実は生き物,特に私たちヒトの目は,ものを見るための端末,センサーにすぎないのです. ものを見るためには,「脳」が不可欠なのです. よって,上の質問への答えは「NO」です.脳だけに.

多くの人は,ものが見えることがあまりにも当たり前なので,それに対して「なぜ」と考えることをしません. しかし,ものが見えるということは,脳で行われる,様々な,そして複雑な処理によって起こる実に奥深い現象なのです.

「ものが見える」をどうやって調べるか?

調べたくても何もアテがないと調べようがありません. そこで,今回は2つのアプローチを紹介します.
1. 視覚的に特異な現象 = 錯視のメカニズムを調べることで,視覚情報処理のメカニズムを考える ... 心理物理学的アプローチ
2. 脳の損傷によって欠落した視覚機能から,脳部位が司る視覚機能を同定する ... 神経科学的アプローチ

1. 錯視研究によるアプローチ

錯視とは,いわゆる「目の錯覚」です. 視覚刺激にある物理的特性が加わると,直感に反した,また物理的特性だけでは説明できないような見えが現れます. 例えば,あるはずのない形や色が見える,とか,止まっているはずなのに動いて見える,などが挙げられます. そしてそれは,注意深い観察やあらゆる予備知識をもってしても覆せません.

錯視は,私たちは目から入ってきた情報をそのまま「見て」いるわけではない,ということを教えてくれます. 私たちは,脳が視覚情報に様々な処理をすることで作り出した「像」を見ており,そして錯視はその視覚処理の産物なのです. つまり,錯視が起きるメカニズムを調べることは,脳の視覚処理を解明することにつながるのです.

一つ例を挙げます.下の画像 (Fig. 3) を見てください. f:id:xxT3:20181202203618p:plain
Figure 3. ニューオリンズカフェ (豊橋) のハンバーガ
全体に水色のフィルターをかけています.

さて,トマトは何色に見えますか?
多くの人は「赤」と答えるかと思います. しかし物理的には灰色なのです (Fig. 4). f:id:xxT3:20181202204319p:plain
Figure 4. トマトの色をピックしてみた
実際は灰色だと言われても,そうは見えません.なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

これは「色の恒常性」で説明できます. たとえば木の葉っぱは,昼間に見ても夕方の赤い光の中で見ても「緑色」に見えます. 夕焼けの中では緑色に赤色が足されているはずなのに,葉っぱは緑色のままです. これは物体がどんな色の光で照らされていたとしても,脳が「物体そのものの色」を推定しようとするためです. 数年前にバズった「 #TheDress 」もこれに関連していると考えられています.

世間一般において錯視はエンターテイメントの面でのみ捉えられがちですが,視覚研究において錯視は一大ジャンルです.

このアプローチで注意すべきことは,これによって得られるものはあくまで視覚処理のモデルであって,実際に脳がどうやってその処理を実現しているか,についてこのアプローチで得ることは難しいという点です. よって,脳機能の解明にはこのアプローチで得られた知見と生理学的・解剖学的な知見を照らし合わせる必要があります.

2. 脳の損傷から調べるアプローチ

何か機械が正常に動作しなくなったとき,機械のある部位が損傷していると考えられます. そしてその部位は,機械の正常に動作しなくなった機能を司っている可能性が高いです.

脳も同様に,ある部位が損傷すると,その部位が司る機能に障害が現れます. 例えば,交通事故の後,要領を得ないような発話しか行えなくなった患者がいたとします. その患者の脳を外科的に調べると,ある一部分に損傷が見られました. このことから,その部位は言語の理解を司ると考えられます. このように,脳に関する症例を積み重ねることで機能を調べよう,というアプローチがあります.

逆に,脳のある部位を損傷や機能停止させて,どのような視覚機能が障害されるか,という実験もあります. これには動物が使われます.

このアプローチで注意すべきことは,脳損傷と障害された機能が必ずしも直接に関係しているとは限らない,という点です. たとえ脳が正常でも視覚処理の末端である目を失えば見えを全て失うように,障害された機能を真に司る部位は損傷部位よりも中枢に存在する可能性があるためです.

おわりに

脳研究は学際的な研究分野ゆえ,医系だけでなく文系,そして私のような工学系の人間もおり,各々が得意とする方法で研究をしています. もし弊学B1~3,あるいは高専の方などがこの記事を見ていたら,こういう進路もあるんだなーと覚えていただければありがたいです.

今日はこれの他に,[ドイツのトリ Advent Calendar][] にも記事を投稿してますので,そちらもよければご覧ください.

明日は je6bmq さんが何か書くみたいです.お楽しみに!